桜山本 『春雨物語』

2016.04.01 Friday

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    ●私は、鹿島神宮の大宮司家の、鹿島則幸氏と出会って、
    研究上の生き方が変わった。則幸氏は、桜山文庫の収集者、
    鹿島則文のお孫さんである。仮名草子『可笑記』の諸本調査
    の折に、大きな出来事があった。その一件以来、終生、鹿島氏
    の御高配を賜った。桜山文庫が昭和女子大学に一括譲渡されたのも
    鹿島則幸氏の御厚意によるものである。
    ●鹿島則幸氏の要請で、私は、上田秋成の『桜山本 春雨物語』を
    出すことになった。

    ●桜山本『春雨物語』は、文化五年本で上田秋成が没する前年のものである。
    文化6年の最終稿本が自筆で伝わるが、欠落があり完全本ではない。完全本
    としては、文化五年のこの桜山本と天理本・漆山本があり、テキストとしては
    桜山本が最も優れたものである。しかし、この写本は、まず、墨書で書写し、
    一部朱筆で補筆している。この、墨書・朱書をどのように評価し判断するかが、
    テキストクリティークの問題点となる。私は、悪戦苦闘の末に結論を出した。
    ●この写本を複製出版するには、スミの単色では研究の使用に耐えないだろう。
    出版社の池嶋社長に交渉して、墨・朱の2色刷にしてくれるよう、お願いした。
    許可は頂いたが、作業は非常に大変である。墨版と朱版の2枚の刷版を作る。
    技術上のことは、私には分からないが、墨・朱の校正には、大変な神経を使った。
    この複製本は、出版社の製版者と私の共同作業であった。
    ●晩年、衰えた視力と、迫り来る死と戦いながら推敲を続けた、秋成の創作意欲と
    執念を思いながら、1字1字、1行1行、1丁1丁、慎重に綿密に、検版・校正を重ねた。
    影印本にはこんなケースもある。桜山本『春雨物語』現在は昭和女子大学図書館所蔵
    となっている。

    ■桜山本 『春雨物語』
     昭和61年2月25日、勉誠社発行


    ■「春雨物かたり」 序